「創造談議・北九州VOL2」村井良子氏講演を公開しました

村井良子(ミュージアムコンサルタント/有限会社プランニング・ラボ 代表取締役)

1957年生まれ、法政大学文学部哲学科卒。法政大学文学部博物館学研究室実験助手、河鍋暁斎記念美術館学芸員、展示学研究所プロデューサーを経て、1991年有限会社プランニング・ラボ設立。


 ミュージアム等の文化施設の建設・運営に関わるコンサルタントをしています。仕事の内容は開館前と開館後で異なります。開館前は基本構想策定から設計・施工まで幅広くかかわります。開館後は、ワークシート1枚の開発から、利用者調査・戦略計画策定・実績評価の設計、さらに具体的な改善・改革推進のお手伝いまで、こちらも幅広くかかわっています。その他、開館前のボランティア導入のお手伝いや開館後のボランティアプログラムの改善やしくみづくり等を支援する仕事もしています。人も施設も元気にする。それが、わたしの役目だと信じ、アニマトゥールをめざして、日々精進しています。
 「創を考える会」はアートを身近に感じてもらえる環境作りを目的に活動されていると伺っていますので、企画をする立場から、人々にアートに触れ合ってもらう場合、どうすれば敷居を低く、間口を広くする事ができるのかについて、昨年金沢にオープンした金沢21世紀美術館の事例などを挙げながらお話を進めていきたいと思います。

■金沢21世紀美術館

 金沢21世紀美術館は、昨年10月のオープン以来、全国からいろんな方が押し寄せ、話題を集めています。なぜ人が集まるかと言うと、今までにない「楽しい」美術館だからです。開館年度は、ミュージアムクルーズという小中学生を招待するプログラム等を実施していたので、常に子どもたちの笑顔であふれていました。そんな印象から笑い声の絶えない、いつ行っても楽しい美術館というイメージが広がっていったのだと思います。
 私は美術館開館に先駆け、約3年間計画に関わってきました。最初の年にミッションステートメントを立て、それを達成するための戦略目標と戦略を考え、指標を組み立てていくという戦略計画方式を採用して、ミュージアムアイデンティティ計画を策定しました。まずは約半年間かかってみんなで協議し、以下のミッションステートメントをつくりました。

(1) 世界の「現在(いま)」と共に生きる美術館
金沢21世紀美術館は、世界の同時代の美術表現に市民とともに立ち会う美術館です。私たちのこの時代には、時間や空間を超え、従来のジャンルを横断する、様々な表現が現れてきています。これらの芸術活動にじかに触れ、体感することで、地域から、未来の創造への橋渡しをします
(2) まちに活き、市民とつくる、参画交流型の美術館
21世紀の美術館には、教育、創造、エンターテインメント、コミュニケーションの場など、新たな「まちの広場」としての役割が期待されています。市民や産業界など様々な組織と連携を図り、全く新しい美術館活動を展開します。
(3) 地域の伝統を未来につなげ、世界に開く美術館
藩政期から伝わる、工芸をはじめとする地域の固有文化が、多様化する21世紀にどのような可能性を持つのか、インターカルチュアルな視点に立って問いかける実験の場となります。
(4) 子どもたちとともに成長する美術館
未来の文化を創り出す子どもたちに開かれた教室として、見て、触れて、体験できる最適の環境を提供します。子どもの成長とともに美術館も進化し、時代を超えて成長します。

 開館後、実際の美術館活動の中にこのミッションステートメントが機能している様子を目の当たりにすると本当にうれしくなります。
 金沢21世紀美術館は、学校の跡地で、隣は市庁舎、むかえには県庁の跡地、200メートル程歩くと繁華街という場所に立地しています。
「みんなが気軽に利用してもらえる美術館したい」ということで「公園のような美術館」を建築コンセプトにしてつくられています。まちを丸いガラスで囲ったような建物になっています。建築設計の段階からキューレーターの長谷川祐子さんが「サンダル履きでも来てもらえるような美術館にしたい」とおしゃっていました。中心は有料空間になっているが、それを取り囲む無料空間はまちのように通り抜けもでき、気持ちの良いライブラリーで雑誌を読むこともできるような構造になっています。

■経済波及効果

 金沢21世紀美術館は賑わいを創り出すという目的もありました。幸い、金沢21世紀美術館は、人の賑わいも実現し、経済的な賑わいを創出し経済効果も生まれていると思います。
 経済波及効果とは、外部から人が来て生まれるものです。本来、文化施設、美術館単体で見ると収支が合わず、経済効果も難しいものですが、美術館があることによっていろんな人々がまちを訪れ、地域に間接効果として経済波及効果が生まれていきます。この効果は産業連関分析を使い数値化することができます。経済波及効果の調査は、江戸東京博物館や国立民俗学博物館、最近では旭山動物園が実施しています。旭山動物園の数値を例に上げると昨年の発表では2.6でしたが最新の再調査の結果では6を越えたと聞いています。ディズニーランドが2.2ですから、これは驚異的な数値と言えます。
つまり、経済波及効果を生み出すためには、外から人々が訪れる仕組みを考えてゆくことが重要ということです。

■身近に感じるための仕掛けづくり

 皆さんにとって身近に感じる場所とはどんなところでしょうか? 生活の中では、ふだん使っている公園とかお店になるでしょうか。そうしたイメージを大切にして、金沢21世紀美術館は公園というイメージで作られています。
 九州国立博物館の1階に「あじっぱ」という無料の文化交流空間があります。「あじっぱ」とはアジアの原っぱという意味です。中には日本と文化交流があった国々の生活文化資料を展示し、加えていろんなアクティビティ・ツールも用意し、大人も子どもも楽しめるようになっています。遊び方や楽しみ方、学び方は規定していません。それぞれが勝手気ままに何時間いてもよい設いになっています。
 身近に感じる環境づくりには、ドラえもんの漫画に出てくるような原っぱのイメージが必要だと思います。「原っぱ」は「身近に感じる場所」の原点のような気がします。
東京の小金井公園の中に「江戸東京たてもの園」という施設があります。東京都内各所から移築して来た歴史的建造物が立ち並ぶ場所ですが、整備途中で予算の都合がつかなくなり、空き地ができてしまいました。そこで、これを逆手に使い、空き地を活用し「原っぱ展」という企画を開催し、空き地をいろんな遊びができる場所に変えてしまいました。「身近に感じるための仕掛け」には、使い手が規制されずに自由に使えることが重要だと思います。
 ミュージアムは学校と違って「自由な学びができる場所」と考えています。今までの「○○教室」「○○を作りましょう」といった体験学習では、参加者が同じプロセスに沿って、限られた時間内で同じものを作ってゆくというプログラムが多かったと思います。でも「自由な学び」の場合は違います。時間はある程度制限されることがあっても、「ポスターを作りましょう」という課題だけが設定され、表現も材料も自由に選ぶことができたり、誰かの協力を得てもよかったりと、自分でデザインして進めていけるのです。私はプログラムを開発する際、参加者に「自由な学び」を体験してもらいたいと願いつつ、試行しながら進めていきます。
 身近にするということは、バリアをなくすことでもあると思います。バリアには物理的、空間、距離、時間があります。アウトリーチ活動のように、積極的に外に出かけていって遠方の方にサービスを提供することなどは、高齢者や障害者などの距離的なバリアを克服する手段です。時間のバリアを克服するものとしては、24時間いつでも利用できる施設、インターネットを使ったバーチャルミュージアムなどが考えられます。精神的なバリアには、かしこまった、お高くとまったものでなく、フレンドリーな仲間が集うような環境をつくることが必要です。経済的な要因は、意外に大きなバリアになっています。アートを身近に感じてない人にとっては、価値が理解できないと例え500円でも大きなバリアに感じるものです。招待券・割引券などは経済的なバリアフリーの有効な手段となります。また、社会的なバリアを取り外すには、仕組みとしての制度を整備していかなければなりません。

■参加者の想像力を解き放つ環境づくり

 参加するレベルには、受動的な参加/「鑑賞する」「見る」行為、能動的な参加/「創る」「仕掛ける」行為があります。行為のレベルによって参加する環境づくりが異なってきます。
 アートを身近に感じてない人にとって敷居を低くするには、受け入れ側が開放的で「一過性の参加でもいいよ」という柔軟で可変性に富む体制で臨む必要があります。あるいは、すべてをお膳立てするのではなく、あえてマイナス部分をつくり観客のイメージを広げ、参加を促す演出をする工夫も大事だと思います。たとえば、演出家ピーター・ブルックのように大きな舞台装置を使わず、敷物や椅子だけで演出することで、かえって観客が物語に集中でき、自分なりのイメージを組み立てやすくするという環境づくりもあり得ます。提示する要素を引けば引くほど、見る人・鑑賞する人たちのイメージは自由に広がっていく可能性を秘めているのです。

■企画やツールをつくる際に気をつけたいこと

 私はワークシート等をつくる時は、単純にものを探してその名前を書くだけのものはつくらないようにしています。見つける・書き写す行為が目的になってしまい、作品や資料と対話する機会を失ってしまうからです。ですから、受け手側が「作品や資料を自分のものにできる」ことを目標に置き、「自分で選ぶ・考える・表現する行為」が体験できること、「答えは1つではない」ことを基本にし、組み立てていくようにしています。答えを1つにしてしまうと勉強と一緒になってしまうので、そのようにならぬよう心がけています。窮屈な思いをしないで、アートを楽しんで感じてもらいたいのです。ともかく、アートを身近に感じてもらいたいのであれば、人間の持つ多様性・可変性を柔軟に受け止めることができるものが望ましいと思います。
 以前(1988~2001年頃)東京原宿でWhat's HAPPENINGというイベントが開催されたことがあります。原宿周辺の約20の店舗が会場となり、アーティストの作品を展示し、鑑賞者が自分だけの図録を作りあげていくという企画でした。参加者は青山ブックセンターで1000円程のアルバムを購入し、各店舗に配された数台のポラロイドカメラ(企業協力)を使って自分の好きなアングルで写真を撮り、アルバムに貼り付け、図録をつくっていきます。この一連のプロセスは、見る人にとって作品を身近にさせる仕掛けになっています。また、日ごろ立ち寄らない場所やお店にも足を運ぶきっかけをつくり出し、結果、まちを巻き込んでゆくイベントになっていました。

■入口づくり

 コンビニは我々にとって身近な存在ですね。「コンビニ」はいつでも開いているし、何でも揃っているし、新しい情報も品物もあるし、本も読める。その上、明るくて入りやすい。人間も動植物にように明るい方向に行く習性(走光性)があります。ですから、動線を考える上で明るさは重要な要素にもなっています。
 他に入りやすい入口とはどんなイメージですか。飲食店の場合では、2階より1階の方が入りやすい、中が全部見えるあるいは中が一切見えないよりも、ちょっと見えているぐらいが入りやすいですよね。ミュージアムも同じで、重厚で厳めしいつくりだと入りにくいもので、建築空間、特にファサードのつくりかたが重要になります。
 欧米では図書館が利用されなくなってきた対応策として、まちの中に小さな図書館が作られています。図書館そのものの普及を目的にはしているのですが、入口付近はカフェで、奥にライブラリーがあるという構造をとっています。入りやすさを演出し、気軽に図書館を体験できる仕掛けになっています。また、横浜に「猫の手」という小さなお店があります。そこは国際協力を目的とするNPOが運営しているのですが、海外の方々も入りやすいようにと安い値段でうどん等を提供しながら、活動を続けています。得た収益は国際援助にあてる活動もしています。間口は狭くても、活動は世界に広がっているのです。
 展示やアクティビティをつくる時にも「入口」づくりは重要です。京都にある「京エコロジーセンター」は環境学習や環境保全のための活動拠点になっていますが、テーマがエコロジーと難しい。そこで、奥深いメッセージを伝えるために展示やプログラムの開発指針を作りました入口として身近な生活シーンや風景、人々がよく知っていることを配すると、導入しやすい環境をつくり出すことができます。(図参照)

効果的な入口を探すために調査をする方法があります。企画開発の途中でエヴァリエーションという検証・改善のプロセスを盛り込みます。フロントエンド・エヴァリエーション(初期段階)、フォーマティブ・エヴァリエーション(制作途中)、サマティブ・エヴァリエーション(設置後総括)と3段階あります。この方法は教育プログラムを作る時にも使われるものです。フロントエンド・エヴァリエーションでターゲットが何を身近に感じるか、あるいは何をよく知っているか、どのくらい知っているか、何に興味があるのか等を調べることで、コミュニケーション効果が高い「入口」を探し出すことができます。

■ブリコラージュ

 「ブリコラージュ」とは、ありあわせの道具と材料で何かをつくろうとする思考法やアプローチのことを言います。私たちは、わざわざ特別に材料を買ってきて用意しなくても、ありあわせや身近なものだけでも創意工夫でつくり上げることができる知恵と術を持っています。特にものがない後進国や先住民族の創意には驚かされることが多くあります。最近は自分でものをつくらず、買って済ませてしまうことが多いので、ものづくりの力が弱っていると思います。
 国立民俗学博物館で「ブリコラージュ展」という企画展が昨年開催されました。この展覧会の目的は2つありました。ひとつはブリコラージュを糸口にしながら、現代人のかかえるアイデンティティ・クライシスや生きる意味の喪失感に対して、人間性の回復を訴えること。もうひとつは、民俗学博物館の収蔵庫に眠っている資料をより多くの人に見てもらい、身近な生活用品やガラクタと組み合わせることによって、両方の価値に気づいてもらおうというねらいです。この展覧会に対する評価は賛否両論がありましたが、私は素晴らしい企画だったと思います。観客が自分なりの新しい見方を発見したり、ストーリーを考えたりできる自由度が高かったからです。アートを身近にするためには、「ブリコラージュ展」のようなアプローチが有効だと思います。

■箱を持たないミュージアム

 ミュージアムの定義は、文部科学省が定めた博物館法の条項や国際博物館会議(ICOM)の規約でも「機関」と表現されています。つまり、箱(建物)を持たなくても、調査研究・収集・保存・展示・教育普及機能を有していればミュージアムと定義できるということです。でも、日本では通例として箱がなければミュージアムではないという思い込みが強いように思います。
 「箱を持たないミュージアム」の例として京都服飾文化研究財団があります。この財団はビルの一角にあり、大きな展示場を有している訳ではありませんが、資料を収集、保存、調査研究し、研究成果として大規模な展覧会を国内外の美術館で開催し続けています。活動にはお金を使うけど建物の維持にお金はかけない、研究成果の発表は必要な時だけ既存施設を活用する、という運営ポリシーは大変参考になります。

■北九州市立美術館への提案

 先日行った時には、館内に子どもの姿がなくて寂しい感じが受けました。子どもや若者を連れてくる仕掛けや仕組みづくりが必要だと思います。
 金沢21世紀美術館では市内の小学校4年生全員を招待し、ミュージアムクルーを今後も継続していく予定になっています。この時、配布されているパンフレットには「もう一回券」が付いていて、次に来館する時は親御さんを連れて来れるような仕掛けを盛り込んでいます。豊田市立美術館では、収蔵品による「VISION2」という特別展が開催されています。入場すると「自分の大好きな作品をひとつ選んでください」というシートを渡されます。この問い掛けひとつで、ただ見るという行為ではない作品との関わり方が生まれてきます。自分で考えながら見る仕掛けをつくって、次の機会につなげていくことが重要だと思います。
 北九州市立美術館は、いろんな人を巻き込んで、ワークショップをもっとやった方がいいと思います。人材はたくさんいるのですから。面白いことの情報をどんどん提供したり集めたり、あるいは発見する楽しみの仕掛けをいろんな場所に作っていったりして、口コミで「面白いところ」というイメージを広げていくことも必要です。何より発信する側には「遊び心」が必要です。

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